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大阪高等裁判所 昭和29年(ラ)75号 決定

抗告人 東美子

主文

本件抗告を却下する。

理由

抗告人の抗告理由は別紙抗告状及び抗告状補充申立書記載のとおりである。

しかしながら裁判所が調停調書更正の申立を理由がないものとして却下した場合においては、裁判所が自らその調書に表現に誤りのないことを再確認したものであるから、これに対し不服の申立はできないものといわなければならない。(大審院昭和十三年(ク)第七一一号同年十一月十九日決定参照)従つて更正決定の申立を理由がないものとして却下した原決定に対する本件抗告は不適法なものとしてこれを却下しなければならない。そこで主文のとおり決定する。

抗告の趣旨

原決定はこれを取消す

本件につき和歌山家庭裁判所妙寺支部で昭和二十八年五月六日成立した調停の調停条項第三項に「相手方は利害関係人石田則子に対し相手方所有の○○郡○○村大字○○○○番地の田五畝十三歩内畦畔三歩、同所………を本日贈与すること」とある次に「及び之れが所有権移転登記手続を為すこと」と更正する旨御裁判を求めます

事実及理由

一、抗告人は相手方石田正二に対する和歌山家庭裁判所妙寺支部昭和二十八年(家イ)第一三号離婚並慰藉料等請求調停事件に付昭和二十八年五月六日同庁で成立した調停条項中其の三項で申立趣旨前段の通り同四項で右三項の農地の移動に関する和歌山県知事に対する許可申請に相手方は同意することの旨を以て調書作成された即ち右調停に因り所有権移転登記手続を強制履行を為さしむることが出来るものとし之れが強制履行の為執行文の附与を受け之れにつき所有権移転登記申請を和歌山地方法務局○○出張所に為したところ同登記官吏は所有権移転登記手続を為すことの記載ないから受理出来ぬとて返戻された

二、依つて抗告人は前記三項の贈与に次で四項に贈与に因る農地移動に関する和歌山県知事に対する許可申請(即ち所有権移転登記に関し要する許可書)に相手方は同意の上之れが許可手続を為し許可の上贈与に因る所有権移転登記手続を為すことを以て調停成立したに不拘所有権移転登記手続を為すことの字句を遺脱したため登記官吏より受理を拒まれ登記を為すことが出来ないから更正決定の申立を為した

三、然るに原審は単に贈与することの条項が明白な誤謬とは認められないとの理由を以て却下されたが抗告人は贈与の調停調書は裁判と同様不履行の場合は強制履行を為さしむるため此の登記手続である作為義務に付執行文の附与を受け執行条件を具備して登記申請を為したが前記の如く不受理となつたので抗告人は之れが更正決定の申立を為したところ却下された

四、抗告人は裁判と同視される調停調書による贈与を原因として単に手続上の事実行為である登記手続の履行を要求するため新たに裁判の手続に依らねばならぬ矛盾を感ずると共に前示の如く所有権移転登記手続に要する知事の許可申請に相手方が同意することの協定は畢竟之れが所有権移転登記手続を為すことを前提としたものであることは明瞭であるのみでなく之れが強制履行の為め執行文の附与ある点から見ても字句の遺脱乃至字句なくても当然所有権移転登記を為し得るものと言はねばならぬ点を判示し斯る登記手続を容易ならしむべきである。

理  由 〈省略〉

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